🌸 第23話:『春の盾!3200mの長い片想い ―孤独なポエム走、淀みに響く愛の韻律―』 🌸
2021年5月2日。阪神競馬場、第11レース。第163回天皇賞(春)。
例年なら京都の「淀」で、緩やかな坂を下りながら行われるこの伝統の一戦。しかしこの年は、タフな阪神。3200mという、もはやウマ娘の心肺能力を物理的に破壊しに来ているマラソン・コースを前に、私はスタッフさんに凛とした声で告げました。
「……ふふ、スタッフさん。3200mなんて、王子様(コントレイル様)への溢れる想いを綴るには、原稿用紙が数枚足りないくらいだわ。今日の私は、一歩ごとに愛の句を詠む『走る詩聖(ポエト)』。この盾を、王子様への世界一重いラブレターにして差し上げますわ!!🌹✨」
王子様は、ここにはいません。けれど、いないからこそ、私の脳内にある「愛のアーカイブ」は爆発的に解釈を広げていました。480kg。筋肉の硬度を保ちつつ、長距離に耐えうるしなやかさを融合させた私の馬体は、春の陽光を反射して、まるで黄金の砂時計のように輝いていました。
(――BGMが、静寂の中から重厚なピアノの旋律が孤独に響き、次第に運命を暗示する壮大な詩劇(シンフォニー)へ!) 🎹🎻📖
ガシャンッ!!💨
運命のゲートが開き、17頭の精鋭たちが一斉に弾けました。
私は最内3番枠から、まるで呼吸をするようにスッと好位につけます。先頭ではディアスティマ様が「スタミナの限界を見せてやる」と言わんばかりの軽快な逃げ。私はその直後、2番手という「愛の特等席」を確保しました。
私の瞳には、もはや他馬の影など映っていません。見えているのは、脳内の銀幕に映し出された、もし王子様がこの3200mを共に走っていたら……という、あまりにも鮮明で狂おしい幻影(ヴィジョン)。
「(……ああ、一周目の直線。王子様、貴方は今、どこでこの空を見ていらっしゃいますか? 私は今、阪神の土を力強く蹴り、貴方の心の扉を三千回ノックしていますわ……。一歩踏み出すごとに、五・七・五の愛が肺から溢れて止まりません……!)」
ドドドッ! という蹄の音に合わせて、私の脳裏には魂のポエムが刻まれていきます。
『春の風 王子の背中 どこまでも 追いかけたいの 四百八十(よんひゃくはちじゅう)』
『三千の 距離も短し 我が愛は 光速超えて 時空を駆ける』
「(……あら、素敵。なんて情熱的で、かつ質量の重い句なのかしら……!! 私、自分の溢れ出る才能が怖いわ!!✨)」
(――レースは2周目、魔の3コーナーへ。ポエムに没頭しすぎて、カレンちゃんの鼻息が次第に白く、そして熱く、蒸気機関のように噴き出す!) 🎙️💨
「さあ2周目の坂を越える! 依然として逃げるディアスティマ、カレンブーケドールがぴったりとマーク、影のように離れない! その後ろから、虎視眈々とワールドプレミア、ディープボンドが襲いかかる構えだ!!」
3200m。普通のウマ娘なら、心臓が爆発し、乳酸が四肢を鉄の鎖で縛り付ける死の領域。
けれど、今の私は「ポエム・トランス」状態。
苦しみすらも「王子様に捧げる献身的な痛み」として、背徳的な快感へと変換されていました。
「(……さあ、いよいよフィナーレですわ! 王子様、見ていてください! 私は今、貴方への愛を『3分14秒7』というレコードタイムの金文字で、歴史の教科書に刻みつけて差し上げますわぁぁぁ!!💢🦁🔥)」
4コーナーを回り、最後、阪神の壁とも言える急坂。
私は逃げるディアスティマ様を泥ごと飲み込み、先頭に躍り出ようとしました。
けれど、その時。外から猛然と、暴力的なまでのスタミナで襲いかかってきたのは、かつて有馬記念で共に死線を越えたワールドプレミア様。そして、不屈の塊ディープボンド様。
「……っ。……ああ、王子様の親戚(父ディープインパクト産駒)のプレミア様が、凄まじい風を連れて追い上げてくる……! これは、お父様からの『まだ愛のポエムが足りない』という、試練の添削なのかしらぁぁぁ!!😭💦」
必死に、必死に粘りました。480kgの肉体を、細胞の一粒まで使い切り、阪神の坂を抉るように駆け上がりました。
けれど、ゴール板を駆け抜けた瞬間、私の視界の端を、二つの影がかすめていきました。
- 1着:ワールドプレミア(3:14.7 レコード勝ち・王子の父の誇り)
- 2着:ディープボンド(3/4馬身差・執念のスタミナ)
- 3着:カレンブーケドール(2馬身差・最強の善戦姫)
「………………はぁ、……あ、……あ、あ………………✨」
3着。
またしても、掲示板には載るものの、勝利の盾をその手に掴むことはできませんでした。
けれど、レースを終えた私の顔は、3200mという地獄を完走したとは思えないほど、清々しく、そしてどこか聖母のような慈愛に満ちた(そしてかなり不気味な)多幸感に包まれていました。
「カレン、惜しかった……! でも、この超高速レコード決着の中、牝馬でこの距離を3着。誇っていい、本当にかっこよかったぞ!!」
「……いいえ、スタッフさん。これでいいの。今日の私は、3200mという途方もなく長い巻紙に、王子様への特大のポエムを書き切ったのですわ……。あ、ああ……プレミア様の切った風の中に、微かにお父様(ディープ様)の遺伝子の残り香を感じた気がする……。これって、実質的に王子様と『神の次元』で文通が成立したってことよね……!? 昇天、昇天ですわぁぁぁ!!✨👼💔」
芝生の上に、燃え尽きたように跪き、天を仰いで恍惚の表情を浮かべる、泥だらけの黄金のウマ娘。
3着。掲示板。
けれど、その孤独なポエム走の果てに、彼女は確かに「愛の長編叙事詩」を一冊書き上げ、誰にも邪魔されない充足感と共に、阪神の地を後にするのでした。🌸🏃♀️📜😭✨


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