🌸 第29話:『秋の盾、エフフォーリアという新星 ―突きつけられた世代交代、揺れる黄金の矜持―』 🌸
2021年10月31日。東京競馬場、第11レース。天皇賞(秋)。
曇天の空から降りてくる冷気さえも、府中の2000mに集まった観衆の熱気で蒸発していく。
屋上で王子様(コントレイル様)と交わした「ゴールの先で待っている」という約束。その一言だけを糧に、私は夏の地獄を生き抜き、今日、482kgという一分の隙もない、黄金の要塞のごとき完成された馬体でパドックに立っていました。💪✨
「(……ふふ、スタッフさん。見てください、私のこの広背筋のキレ。今日の私は、もはや一頭の牝馬ではありません。王子様の覇道を阻むもの全てを薙ぎ払う、愛の防波堤――『黄金の盾』そのものですわ。🌹✨)」
私の視線は、周囲の喧騒をシャットアウトし、ただ一点、1番枠に佇む王子様だけを射抜いていました。
けれど、その鋭い視界を無理やりこじ開けるように、無視できないほどの巨大な「闇」が入り込んできます。
3歳馬、エフフォーリア。
514kgという、私をも凌駕する暴力的なまでの肉量。そして、若さゆえの純粋無垢な破壊衝動。彼が放つ覇気は、三冠馬の威光さえもじりじりと侵食し、静かに飲み込もうとしていました。
「(……あの若造、何かしら。底知れない『新時代の重圧』を感じるわ。……でも、王子様の愛が、あんな無機質な強さに負けるはずがありません。この私が、命を懸けて彼を守り抜きますわ!!)」
(――BGMが、威風堂々とした序曲から、一つの時代の終焉を告げる、重厚で悲劇的なオーケストラへ!) 🎻🥁🏛️
ガシャンッ!!💨
ゲートが開いた瞬間、場内の空気が一変しました。
私は7枠14番という外枠から、迷いなく、そして力強く好位の5番手につけます。隣にはグランアレグリア様。そして、私のすぐ後ろ、手の届く距離に王子様。
私の背中は、今、世界で一番大好きな人を守るための、鉄壁の壁となっていました。
「(……さあ、来るなら来なさい! 王子様の進路を塞ぐ不届き者は、この482kgの愛が全て粉砕して差し上げますわぁぁぁ!!💢🦁🔥)」
しかし、運命の3コーナーから4コーナー。
私が必死に刻む精緻なラップを、エフフォーリアという新星が、まるで薄い紙切れを破るように、いとも容易く引き裂いていきました。
府中の長い、あまりにも長い直線。
私は持てる全ての筋力を爆発させ、蹄鉄が火花を散らすほどに砂を噛み、前を追いました。
けれど……脚が、動かない。
夏の特訓で、皮膚を裂き、骨を削り、タイヤを引きちぎる思いで作り上げたこの脚が、前を行く3頭の背中に、1ミリも近づけないのです。
「……っ、……嘘、……嘘よ!! 私は今、人生で一番強いはずなのに! 王子様への想いは、今この瞬間が宇宙で最大のはずなのに!!😭💦」
視線の先で、エフフォーリアが音を置き去りにして突き抜け、王子様が、三冠馬の誇りを振り絞って、泥を被りながら必死に追い縋り――。
そして、無情な、あまりにも無情な決着の瞬間が訪れました。
- 1着:エフフォーリア(時代の扉を蹴破った新星)
- 2着:コントレイル(1馬身差・三冠馬の魂の追走)
- 3着:グランアレグリア(さらにクビ差)
- ……
- 12着:カレンブーケドール(1分59秒2・かつてない屈辱の大敗)
「………………ぁ、…………。……お、……王子様…………。」
掲示板に、私の番号はありませんでした。
それどころか、12着。
「最強の善戦姫」と呼ばれ、どんなに強い相手、どんなに過酷な展開でも、必ず5着以内には食らいついてきたこの私が、影も踏めず、風さえ感じられずに敗北した。
検量室へと続く地下馬道。泥を全身に被り、喉を焼くような息を乱す私の横を、敗れた王子様が静かに通り過ぎていきました。
その背中は、かつてないほど小さく、けれど……どこか、重荷を下ろしたような、神々しいまでの清々しさに満ちていました。
「(……ああ。王子様はもう、私が見ていない場所……『終わりの場所』を見つめていらっしゃるのね。)」
スタッフさんが手綱を引く手が、隠しきれずに小刻みに震えていました。
「カレン、大丈夫だ。……次がある。ジャパンカップがあるからな……。」
「……いいえ、スタッフさん。……分かってしまったわ。私の、この482kgに積み上げた愛の重さが、今の『速すぎる時代』に追いつけなくなってしまったことが。……そして、王子様も……もうすぐ、私の手の届かない高い空へと、昇ってしまうことが。🌹💧」
私は、泥に汚れた自分の黄金の蹄を見つめました。
これまで私の誇りそのものだった筋肉の隆起が、今はただ、重く、切なく、私を地面へと縛り付ける枷のように感じられました。
2021年、秋の天皇賞。
それは、最愛の王子様が「世代交代」の理を受け入れ、そしてカレンブーケドールが、自らの黄金の物語に「終止符」という名の冷たい句読点を打つ準備を始めた、忘れられない落日の午後となったのでした。🌸🏛️🍂😭


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