🌸 第34話:『黄金の花束を、君に ―数年越しの「愛」を、今、言葉に。―』 🌸
ターフを揺らした地響きも、数万の観衆が叫んだ熱狂も、今は遠い夢の彼方。
季節は巡り、柔らかな春の陽光が、萌える緑を宝石のように照らす北海道の牧場。
私は、かつて戦場(ターフ)で磨き上げ、命を削って維持した482kgの肉体を、今は穏やかな北の大地の風に委ねていました。けれど、その薄い皮膚の下、胸の奥底で脈打つ「愛の鼓動」だけは、引退前よりも熱く、鋭く、そして重く、私の魂を揺さぶり続けていたのです。
「……来てくださったのですわね、王子様(コントレイル様)。」
(――BGMが、風の音に溶けるような静かなハープの音色から、心の震えをなぞるように、繊細で情熱的なピアノ・コンチェルトのクライマックスへ――) 🎹✨🌹
柵の向こう、沈みゆく残照に照らされて、かつて「空を駆ける三冠馬」と呼ばれたあの方が立っていました。
現役を終え、より一層高貴で、深みのある漆黒の輝きを纏った王子様。
その深く、すべてを見透かすような瞳と視線がぶつかった瞬間、私の頭の中にあった数万のポエム、そしてこれまで築き上げてきた「ネタ」としての防衛本能はすべて塵となって霧散し、ただ一つの「真実」だけが残りました。
「カレンさん。……ここに来ると、なんだか不思議な気持ちになるんだ。……君が隣にいると、あの激しかった、苦しかったはずのレースの日々さえ、すごく愛おしい、大切な時間に思えてくる。」
王子様のその、あまりにも優しく、無防備な言葉。それが私の、数年間守り続けてきた「鋼の自制心」を粉砕しました。
私は、一歩、また一歩と、乾いた土を踏みしめ、王子様との距離を詰めました。
図書室で閉じ込められたあの時よりも、夜の廊下で震えたあの夜よりも、今、私の魂は王子様の核心に近づいている。
482kgの身体が、喜びと、そして「終わってしまうこと」への恐怖で、小刻みに震えているのが自分でも分かりました。
「……王子様。聞いてください。私は……私は、ただ貴方の隣を走りたくて、貴方に見てほしくて、この肉体を不自然なまでに鍛え、魂を削り続けてきました。……三冠馬という、私には届かない眩しすぎる光の中に、一瞬でもいいから、対等な存在として触れたかった。……でも、……でも、それだけではありませんの!」
私の瞳から、大粒の涙が溢れ出し、手入れされた黄金の毛並みを濡らしていきます。
もはや、バルクで自分を大きく見せる必要も、冗談で場を和ませる必要もない。
私は、一頭の「恋する女の子」として、この人生で一番、重くて、温かくて、そして美しい言葉を、春の風へと解き放ちました。
「……大好きですわ!! 王子様!!
府中を駆け抜ける貴方の孤独な背中も、敗北の中で見せたあの神々しい微笑みも、私をいつも気遣ってくれた、その臆病なほどの優しさも……そのすべてを、私は命の限り、愛していますわ!!
貴方のこれからの長い人生、その隣に立つのは、……その特等席にいるのは、他の誰でもない、この私であってほしいのですわぁぁぁ!!😭😭💖」
静寂。
全ての風が止まり、世界が私たち二頭だけになったかのような錯覚。
王子様は、驚いたように、けれど吸い込まれるように私を見つめ、それから……。
ゆっくりと、慈しむように、私の黄金の額に、自分の鼻先をそっと寄せました。
「……重いね、カレンさん。……君の愛は、やっぱり、世界で一番重くて、温かい。……でも、僕も、その重さにずっと救われていたんだ。……もう、走らなくていい。もう、強がらなくていいんだよ。……ただ、僕の隣で、一緒にこの景色を眺めていてほしい。……僕も、君のことが、大切だよ。……いや、愛している、と言った方がいいのかな。」
「……っ、……あ、あああ……!! (王子様が……王子様が『愛している』と……!! これ、これこそが、私の482kgの人生がすべて報われた、最高で最後の、真実の戴冠式ですわぁぁ!!✨👼💔)」
私は王子様の温かい首筋に顔を埋め、幼子のように声を上げて泣き続けました。
これまでの苦しかった砂浜の練習も、届かなかったハナ差の悔しさも、すべてはこの一瞬を彩るための「黄金の花束」へと昇華されたのでした。
『数年を 超えて結んだ この絆 黄金の花束 君に捧げん(完)』
夕闇が二人を優しく包み込む中、カレンブーケドールは、ようやく見つけた「愛という名の完全勝利」を、その全身で、全霊で噛み締めていたのでした。🌸💍🏁💘✨


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