🌸 第32話:『コントレイルの引退式、潜入大作戦! ―愛ゆえの変装、最前列は譲りませんわ!―』 🌸
「……ふふ、スタッフさん。淑女たるもの、愛する人の最期……いえ、最高の門出は、この情熱の眼差し(レーザービーム)が届く最短距離で見守るのが、真の『愛の礼儀』というものですわ。🌹✨」
2021年12月18日、中山競馬場。
引退届を提出し、世間的には「静かな余生」に入ったと思われていた私は、厳戒態勢のバックヤードに潜伏していました。
身に纏うのは、黄金に輝く馬着ではなく、闇ルート(?)で調達してきた**「トレセン学園指定・清掃員用つなぎ(特大サイズ)」**。
さらに顔には、夜の海さえ見通せそうな漆黒のサングラスと、鼻先の微かなヒクつきさえも封じ込める巨大な防塵マスク。
「カレン、正気に戻れ! 無茶だ! その格好をしても、お前の夏の特訓で異常発達した広背筋と、480kgの圧倒的な『存在の暴力』は1ミリも隠せていない! 誰が見ても『清掃員のフリをした重戦車』にしか見えないぞ!」
「失礼な! 私は今、完全に空気、あるいは冬の枯れ草に舞う一粒の塵のように気配を消していますわ! さあ、王子様(コントレイル様)のラストメッセージを、特等席(芝生直近)で拝聴しに行きますわよ!💪✨」
(――BGMが、感動的な引退式の調べから、往年のスパイ映画を彷彿とさせる、ウッドベースの効いた軽快でコミカルなジャズへ!) 🎷🕵️♀️🔥
私は、清掃用のモップを「愛のランス(槍)」のように携え、警備員の視線が逸れた一瞬の隙を突き、パドックからコース脇へと潜入を開始しました。
しかし、ここで予期せぬ障害が立ちはだかります。夏のタイヤ引きで鍛え上げられた私の「愛の歩法(ステップ)」は、一歩踏み出すごとにアスファルトに「ドォン……ドォン……」と地響きを発生させ、すれ違う関係者たちが「……え? 地震? それとも、誰か工事してる?」と不安げに周囲を見回すのです。
「(……いけないわ、殺気を消さなくては。王子様に、この蒸気機関車のような情熱的な鼻息が届いてしまったら、式の厳かな雰囲気が私の『重すぎる愛』で上書きされてしまいますわ。)」
なんとかコース脇の植え込みに、巨体を無理やり押し込んで身を潜めた私の視線の先に――。
ついに、漆黒の馬体を夕日に輝かせ、空気を震わせるほどの威風を纏った王子様が登場しました。
ファンたちのすすり泣きと、万雷の拍手。
王子様は、三冠馬という名の重い十字架をすべて下ろし、最高に誇り高く、そして世界で一番孤独で美しい「一頭の英雄」としてそこに立っていました。
「……っ!! ああ、王子様……。その、前髪が冬風にさらわれる刹那の揺らぎ、その大地を慈しむような蹄の置き方……すべてが私の網膜に、純金よりも眩しく焼き付いていきますわ……っ!! 😭💖」
感動。その一言では片付けられない激情が私の全身を駆け巡り、特訓で鍛えた広背筋が、主の意思を無視して勝手に猛烈なパンプアップを開始しました。
直後、**「パツンッ!! ――バリバリバリッ!!」**という、布地が悲鳴を上げる不穏な破壊音が響き渡ります。
清掃員のつなぎの背中部分が、私の筋肉の膨張に耐えきれず、見事にV字に弾け飛び、隠していた黄金の毛並みが中山の夕日に照らされて露わになってしまいました。
「……あ。……マ、マズいですわ。これでは『露出狂の黄金馬』、あるいは『清掃員に擬態したUMA』として通報されてしまいますわ!」
焦り、茂みの中でジタバタと身悶える私。
しかし、その時でした。壇上でファンの声援に応えていた王子様が、ふっと……。
本当に、偶然とは思えないほど自然に、私が潜伏している(そして背中が裂けて全開になっている)茂みの方へと、その深い慈愛に満ちた瞳を向けたのです。
王子様は、一瞬だけ驚いたように目を見開き、それから……。
世界で一番優しく、そして「ああ、また君なんだね」とすべてを悟ったような、呆れ顔混じりの柔らかな苦笑いを浮かべ、小さく、けれど確かに頷いてくださいました。❄️✨
「(……えっ!? 今、目が合った!? 王子様、今、この無残な姿の私を見て『相変わらず、重くて愛しい奴だな……』って、魂で語りかけてくださいましたわよね!? これってもう、実質的な公開プロポーズ、あるいは銀河系規模の生涯同伴宣言ではございませんことぉぉぉ!!✨👼💔)」
「……カレン、見つかってるぞ! 警備員が不審な黄金の光を見てこっちに来る! 撤収だ、強制送還だ!」
「待って、スタッフさん! あと一言……あと一言、この裂けた背中から溢れ出す愛のポエムを絶叫させてくださいな!!」
『引退の 主役を喰うなと 言われても 愛のバルクが 服を突き破る(合掌)』
結局、私はスタッフさん数名に「捕獲」される形で、式典の途中で無念の強制送還(エスケープ)となりました。
けれど、私の胸の中には、最後に王子様と通じ合った(と確信している)あの熱い視線の余熱が、冬の北風を跡形もなく吹き飛ばすほどに、いつまでも、いつまでも黄金色に燃え盛っていたのでした。🌸🕵️♀️💪🏁💘


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