🌸 第5話 歌うような声で怒るのやめてください
朝の厩舎に、妙な緊張感が漂っていた。
理由は簡単。
ちびディーヴァが朝から機嫌が悪い。
スタッフがそっと近づくと──
「……ッ!」
怒っている。
怒っているのに、声がやたら綺麗。
「え、今の怒り声?」
「なんで音程ついてるの?」
「怒ってるのに可愛いってどういうこと?」
誰も怒れない。
むしろ癒やされている。
他の子たちはというと、
「あ、また始まった」
と言わんばかりに距離を取る。
完全に“朝のルーティン”扱いである。
マスクオフ母さんは静かに見守っていた。
「放っておけば落ち着くわよ」
という母の余裕が漂っている。
しかし、ディーヴァの怒り声は
どう聞いても 歌っているようにしか聞こえない。
「ねえ、これ歌って怒ってない?」
「いや、怒りのビブラート入ってたよね?」
「音程が綺麗すぎるんだけど!?」
スタッフがざわつく。
ディーヴァはツンとそっぽを向いて否定する。
(もちろん無言だけど、完全に“否定のそっぽ向き”)
しかし怒るたびに、
声がさらに綺麗になっていく。
「ちょっと待って、今の高音すごくない?」
「怒り声で音階踏んでるよ!?」
「この子、絶対なんか持ってる……!」
その声に釣られて、
他の馬たちがぞろぞろ集まってきた。
「なに?コンサート?」
「朝ライブ?」
スタッフが半笑いになる。
ディーヴァは気づいて、
ふいっと顔をそむける。
ちょっと照れている。
怒りがすこし収まったようだ。
そして最後に、
小さく、ほんの小さく──
「……んっ」
と、柔らかい声が混ざった。
それは、どう聞いても
デレ声だった。
スタッフ全員、固まる。
「……今の、デレたよね」
「怒り声より可愛いってどういうこと?」
「この子、やっぱり歌姫だ……」
こうして、
ディーヴァの“歌って怒る”という謎の才能が、
スタッフ全員に深く刻み込まれたのだった。



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