🐎 第18話:【高松宮記念】重馬場とお嬢様のワルツ —泥に消えた5着の、その先へ— 🌧️🎻
2022年3月27日。中京競馬場の空は、朝からの雨が上がって眩しいほどの陽光が差し込んでいました。☀️
しかし、足元は別。前夜の雨をたっぷりと溜め込んだ芝コースは、まるで底なしの沼のように黒く、重く、競走馬たちの体力をじわじわと奪い去る「重馬場」へと姿を変えていました。🌪️
パドック。2番人気のメイケイエール様が姿を現すと、観客席のフェンス際には、カメラを構えたファンが幾重にも重なりました。📸✨
「今日は大丈夫か?」「この馬場で暴れたら止まらないぞ」
期待と不安が交錯する中、お嬢様は自慢の白いシャドーロールを泥で汚したくないかのように、気高く、しかしどこか落ち着いた足取りで歩いていました。
『……ハァ。今日のこの絨毯、湿気ていて非常に不快ですわ。私の自慢のドレス(脚)が、これでは台無しになってしまいますわよ。……ねぇ、池添様。今日は少し、淑女(レディ)らしく静かに踊りませんこと?』💅💧
背に跨る池添謙一は、お嬢様の熱を帯びた首筋を、指先で優しく、愛おしそうになぞりながら囁きました。
「……エール。今日は喧嘩しなくていい。この悪い馬場だ、お前のパワーを最後の1ハロンまで取っておこう。……俺を信じて、少しだけ、俺のリズムに合わせてくれ。」
15時40分。春の短距離王を懸けた運命のゲートが、静寂を切り裂いて開きました!
――ガシャン!
12.1 – 10.3 – 11.0。🚀🔥
重馬場とは思えない、心臓を抉るようなハイペースが刻まれます。
外枠17番から飛び出したエール様。いつもの「爆走モード」なら、ここで池添の腕を引きちぎり、先頭へと突き抜けて自滅していたはず。
数万人の観客も、実況アナウンサーも、「さあ、エールがいつものように暴れ出すぞ!」と身構えた、その瞬間でした。📢⚡
「……信じられん。メイケイエールが、控えている!?」
お嬢様は、池添が優しく、けれど絶対に揺るがない意志で引いた手綱に対し、一度だけ激しく首を上げましたが……次の瞬間、彼の意思を汲み取るようにグッとハミを噛み、馬群の外側でじっと「牙」を隠したのです!
『……っ! 行きたい……今すぐあの風の先へ!! ……でも、この背中の男が、今はまだだと叫んでいますわ。……仕方ありませんわね。一曲だけ、あなたの不器用なタクトに合わせて差し上げますわ!!』🎻✨
3コーナー、4コーナー。
先行馬たちが蹴り上げる黒い泥が、雨飛沫のようにエール様の顔面を襲います。
美しい鹿毛は一瞬で土色に汚れ、視界さえも遮られる過酷な状況。
それでも、お嬢様は池添と呼吸を合わせ、脚を溜め続けました。
それは「格闘」ではなく、深い信頼に基づく「対話」。
泥濘の中、二人は誰よりも重厚で、誰よりも美しいワルツを踊っているようでした。🕺💃
直線!
「今だ、エール!! 行けぇ!!」
池添の絶叫と共に、外から一気に突き抜けるメイケイエール!
スタンドからは、地鳴りのような歓声が沸き起こりました。📣⚡
「エール! 差し切れ!」「池添ぇ!!」
しかし、深い泥が見えない手のように、お嬢様の自慢の瞬発力をじわじわと引き摺り下ろします。
内側を通ったナランフレグやロータスランドが、泥飛沫を上げながら猛然と迫る!
最後は5頭が横一線、泥にまみれて同時になだれ込む死闘!
【5着:メイケイエール】 🏆🌸
タイム差なしの5着。クビ・ハナ・クビの僅差。
勝利の女神は、あと数センチのところで微笑みませんでした。
しかし、掲示板に表示されたその名前に、観客席からは「負けても強かったぞ!」という惜しみない拍手が贈られました。
そこには「暴走」で自滅した姿ではなく、最後まで池添の手綱を信じ、顔を真っ黒にして戦い抜いた、誇り高きお嬢様の姿があったからです。🏁✨
検量室に戻ってきた二人。
白いシャドーロールは泥を吸って重くなり、池添の勝負服も元の色が分からないほど土色に染まっていました。
池添は、荒い息を吐くお嬢様の耳元で、そっと額を寄せました。
「……よく頑張ったな、エール。今日は……本当にお前と『心』が通じた気がしたよ。……ありがとな。」
お嬢様は、疲れ果てた様子で、でもどこか満足げに、池添の泥だらけの胸にそっと鼻を寄せました。💅💖
『……ふん。お世辞は結構ですわ。……でも、泥まみれのワルツも、案外悪くありませんでしたわね。……次は、もっと輝く、最高の舞台で踊りましょう? 池添様。』
「勝負」には負け、けれど二人の「絆」は中京の泥の中で、何よりも硬く、尊く結ばれたのです。🐾🔥



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