🌩 第30話 歌姫が残したもの──嵐のあとに咲くもの
ディーヴァがいなくなった厩舎に、
春の風がそっと吹き込んだ。
昨日まで嵐のように存在感を放っていた場所が、
今日は少しだけ広く、
少しだけ静かに感じる。
スタッフはその空気を胸いっぱいに吸い込み、
ぽつりとつぶやく。
「……春だな」
「嵐が止んだあとの、優しい風だ」
🌸 新しい命の中に“ツン顔”が一頭
放牧地では、
新しい子馬たちが跳ね回っていた。
その中に──
ひときわ気になる子が一頭。
「おい、あの子……」
「ちょっとツン顔じゃない?」
「え、前髪……整いすぎじゃない?」
スタッフがざわつく。
その子は、
妙に前髪が整っていて、
鼻息がちょっと強い。
風が吹いても乱れない前髪。
ピンと立つ耳。
そして、
ツンとした顔。
「……ディーヴァに似てる」
誰かがそう言うと、
全員が笑った。
🌬 面影がそこかしこに残る
厩舎の壁。
調教のメモ。
スタッフのスマホに残る写真。
そして、
ふとした瞬間に思い出す鼻息の音。
どこを見ても、
どこを思い返しても、
ディーヴァの面影が残っている。
「嵐の歌姫だったな……」
「ツンデレで、暴走で、でも優しくて」
「ほんと、特別な子だった」
その言葉に、
全員が静かに頷く。
⚡ 映像を見るたびに胸が熱くなる
スタッフのひとりが、
またレース映像を流す。
ローズSの雷鳴のような末脚。
秋華賞の迫る力。
阪神牝馬Sの復活の風。
ヴィクトリアマイルの誇り高い走り。
映像を見るたびに、
胸が熱くなる。
「強かったな……」
「嵐みたいに駆け抜けたよな」
「歌ってたよね、あの子は」
🌱 嵐のあとに咲くもの
ふと視線を戻すと、
あの“ツン顔の子馬”が
こちらをじっと見ていた。
前髪は完璧。
鼻息は強め。
耳はピンッ。
スタッフが笑う。
「……未来って、こうやって来るんだな」
「嵐のあとに、ちゃんと花が咲くんだ」
ディーヴァが残したものは、
記録でも、
勝利でもなく──
“風のような記憶” と “新しい命” だった。
🌩 歌姫の物語は、静かに続いていく
嵐の歌姫は去った。
でも、
その歌は消えない。
風が吹くたびに思い出す。
前髪が揺れるたびに笑ってしまう。
ツン顔の子馬を見るたびに胸が温かくなる。
そして、
新しい命が走り出すたびに思う。
「ディーヴァ、ありがとう」
嵐のあとに咲いた未来が、
今日も静かに揺れていた。


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