​🌸『カレンブーケドールは、あの日見た雲に恋をする』🌸 第6話

​🌸『カレンブーケドールは、あの日見た雲に恋をする』🌸

🌸 第6話:『デビュー戦の悪夢、ダノンキングリー! ―アタマ差の洗礼―』 🌸

​2018年10月8日。東京競馬場、第5レース。

空は低く垂れ込めた曇天でしたが、私の心は一点の曇りもない黄金色に輝いていました。✨

​「……ついに、ついにこの日が来たわ! 私の美しさと、地獄の特訓で作り上げたこの『ワガママボディ』を全世界にお披露目する記念すべきデビュー戦! 見てスタッフさん、このパドックの視線を独り占めにする私の輝き! 観客の皆さんも、きっと心の中で『なんて可憐な花束(ブーケドール)なのかしら!』って絶叫しているはずよ!🌹✨」

​「カレン、お前の自意識過剰は今に始まったことじゃないけど……落ち着け。ここは東京・芝1600m。紛れのない瞬発力と、何より冷静さが試される舞台だ。北村(宏司)ジョッキーを信じて、自分の走りに集中しろ。🐴」

​スタッフさんは心配そうですが、私は自信満々。だって、今の私は466kg。お母様が「戦う者の肉体」と認めてくれた、最高の仕上がりなんですもの。💪💖

(――BGMが、高揚感あふれる出走ファンファーレへ!)

​「……行こう、カレン。君の輝きを、向こう正面まで届けてこい。」

北村ジョッキーの合図とともに、ゲートが開きました。

ガシャンッ!!💨

​「……っ!!」

​開いたゲートの先、冷たい秋の風が私の鼻先を叩きました。

馬場状態は「良」。けれど、踏みしめる芝には適度な弾力があり、私の鍛え上げた脚がそれを完璧に捉えます。

道中は中団、18頭立ての13番手。砂を被り、周囲の荒々しい息遣いに包まれながら、私はじっと息を潜めました。そう、お嬢様は一番おいしい場面まで、その牙を隠しておくものなの。😏✨

​そして、迎えた運命の最終直線。

東京競馬場の、あの地平線まで続くかのような長く過酷な直線に差し掛かった時、北村ジョッキーの手綱が、私の魂を解放しました。

​「……今よ! 私の脚、火を噴きなさい!! コントレイル様、見ていて頂戴! 私はあの方に相応しい、世界一強くて美しい花嫁になるんだからぁぁぁー!! 🔥🌻」

(――BGMが急加速! 心臓の鼓動を刻むビート!)

​「……外からカレンブーケドール! 凄い脚だ! 上がり3ハロン33秒ジャスト! 一頭、また一頭と、先行集団を影すら踏ませぬ勢いで飲み込んでいく!!🎙️💥」

​実況の声が耳の端を通り過ぎる。

視界は極限まで狭まり、ただ一点……ゴール板だけが、スローモーションのように近づいてくる。

負けるはずがない。私が主役。私が女王。私が、この世界の真ん中。

​しかし。

ゴール板まで残りわずか数メートル。勝利を確信し、喜びの雄叫びを上げようとした私の視界に、内側から「閃光」のような勢いで突き抜けてくる影がありました。

​「……えっ!? 誰よ、私より目立とうとする不届き者は!?💢」

​それは、2番人気の牡馬、ダノンキングリー

あの子……何なの、あの信じられないキレは!? 私が全身全霊で絞り出した末脚、メンバー最速の33.0秒を、さらに冷徹に、残酷に上回るような加速で、私の鼻先を掠めていったのです!

​「……負けない! 私が……私が一番なのよぉぉぉ!!💥」

(――静寂。二頭が重なってゴール板を駆け抜ける。写真判定へ)

​「……ダノンキングリーか!? カレンブーケドールか!? …………わずかに、ダノンキングリーだー!! アタマ差、届きませんでした!!🎙️⚡️」

​「………………嘘、でしょ?」

​ゴールを過ぎて、私は呆然と立ち尽くしました。

電光掲示板に表示された非情な数字。

  • 1着:ダノンキングリー(牡2) 1:37.5
  • 2着:カレンブーケドール(牝2) 1:37.5

​着差、わずかに**「アタマ」**。

私の、鼻先わずか数センチのところで、1着(王子様へ捧げる最初の花束)が零れ落ちていきました。

​「……アタマ……差。……あんなに走ったのに。……誰よりも、速く走ったのに……! 嘘よ、こんなの認めない、認めないわよぉぉぉぉー!!😭💦」

​検量室に戻る途中、駆け寄ってきたスタッフさんが、私の泥だらけの顔を見て絶句しました。

「カレン! 凄かったぞ! 上がり33秒フラットなんて、並の馬じゃ一生出せない時計だ! 負けはしたけど、お前の力は本物だ……!」

​「……うるさーい! 2着じゃダメなのよ! 2着じゃ、王子様に『おめでとう』って胸を張って言えないじゃない!! 私、世界で一番可愛いのに! 一番努力したのに! どうして……どうしてあの子に届かないのよぉぉぉ!!😭😭」

​北村ジョッキーの背中で、私は人目も憚らず、心の中で叫び続けました。

デビュー戦の曇り空。

泥を跳ね上げた私の「黄金の花束」は、2着という屈辱を、何よりも濃い肥料にして――。

「次は絶対に、1着という場所でしか咲かない」という、呪いにも似た凄まじい執念を、その根っこに深く、深く刻み込んだのでした。🌸🏁💔

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