​🌸『カレンブーケドールは、あの日見た雲に恋をする』🌸 第36話

​🌸『カレンブーケドールは、あの日見た雲に恋をする』🌸

​🌸 第36話:『第二の人生!お母様との和解 ―黄金の魂が、源流へと還る日―』 🌸

​北海道、新冠。冬の終わりを告げる湿った風が、眠っていた大地を揺り起こし、力強い緑が力強く地表を押し上げ始めたある日のこと。

私はノースヒルズの静かな、陽だまりの一角で、その方の到着を待っていました。

かつて南米アルゼンチンの広大な大地で女王として君臨し、私にその気高く、そしてあまりにも強烈な黄金の血を与えた母――。

​「……来たわね、ブーケドール。いえ、今はもう、ただの『カレン』と呼んだ方がいいかしら。」

ソラリア

私と同じ、けれど私よりも冷徹で、鋭利な刃物のような黄金の光を纏った母が、静かに私の前に立ち止まりました。

現役時代、私は母の「海外G1馬」という重すぎる肩書きに、常に背中を焼かれるような思いをしてきました。

掲示板を外さない堅実さは、見方を変えれば「あと一歩が足りない」という呪い。勝てないたびに、私は母の誇り高き血を泥で汚しているのではないかと、人知れずバルク(筋肉)の下で、仔馬のように心を震わせていたのです。

​「……お母様。ご無沙汰しております。……私は、結局お母様のような『勝利の王冠』を、一度もその頭上に戴くことはできませんでした。……私は、……私は貴女の期待を裏切った、不出来な娘、でしたでしょうか。」

(――BGMが、静寂の中から、過去のすべての葛藤を洗い流すような、透明感溢れるストリングスとピアノの切ない旋律へ――) 🎻🏔️✨

​私はギュッと目を閉じ、視線を地面に落としました。

夏の海辺でタイヤを引きちぎり、482kgまで鍛え上げたこの肉体も、母の威厳の前では、初めてターフに立った日の、足の震える仔馬のように小さく、ひ弱に感じられました。

重苦しい沈黙が続く中、母の口から漏れたのは、叱責ではなく、予想だにしなかった「震える吐息」でした。

​「……何を言っているの。……私は、見ていたわよ。貴女が泥を被り、喉を焼くような苦しさに耐え、一度も、ただの一度も止まらずに、日本の過酷なターフを駆け抜けてきた、その『不屈』の5年間を。」

​母が、ゆっくりと、慈しむように歩み寄り、私の黄金の首筋に、自分の温かい鼻先を寄せました。

それは、私の記憶にあるどの厳しい特訓よりも温かく、魂の深くまで浸透してくるような、優しい体温でした。

​「……貴女は、私を超えたのよ、カレン。……私は勝つことでしか、自分の価値を証明できなかった。でも、貴女は、勝てなくても、誰からも愛され、誰よりも強く、そして最後には、あの誇り高き三冠馬の心さえも、その『誠実な脚』で射止めた。……それは、1馬身や2馬身の着差で測れるような、そんな安い価値ではないわ。」

​母の、すべてを見透かすような大きな瞳から、一滴の涙がこぼれ、私のたてがみに吸い込まれていきました。

​「……よくやったわ、カレン。……本当によく、走り抜いたわね。……私の、自慢の娘。」

​「……っ、お、お母様……!! あああああああ!! 😭😭😭」

​その瞬間、私の中で張り詰めていた何かが、音を立てて崩れ去りました。

堰を切ったように、熱い涙が溢れ出しました。

これまで「最強の善戦姫」という明るい言葉の裏に隠してきた孤独、G1の壁に跳ね返されるたびに感じていた絶望、そして、ただ一言「お母様に愛されたい」と叫んでいた幼い日の魂。

そのすべてが、母の「よくやった」という一言だけで、春の雪解けのように、濁流となって消えていきました。

私は母の広い胸に顔を埋め、482kgの強靭な身体を、子供のように激しく震わせて、声を上げて泣き続けました。

​『母の背に 追いつけなくて 泣いた日々 今は温かな 愛の源流(みなもと)』

​「……ふふ、見て。王子様(コントレイル)が心配そうにこちらを覗いているわよ。……幸せになりなさい、カレン。貴女がこれから紡ぐその新しい命は、きっと、私たちが成し遂げられなかった『何か』……着差を超えた愛の物語を、さらに遠くまで届けてくれるはずだから。」

​母と寄り添い、二頭で眺める北海道の、燃えるような夕暮れ。

カレンブーケドールは、この日、ようやく自分自身の「過去」とも、そして「血の宿命」とも和解し、真の意味で、次の世代へと愛を繋ぐための、気高くも優しい「母の心」を手に入れたのでした。🌸💧🐎✨

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