🌸 第8話:『初勝利!未勝利戦の泥と誓い ―黄金の蕾、冬に咲く―』 🌸
2018年12月16日。中山競馬場、第3レース。
凛と張り詰めた冬の空気の中、私はパドックの砂を踏みしめていました。
廊下での失神事件という「人生最大の黒歴史」から数週間。おでこのたん瘤は消えても、あの日浴びた王子の瞳の輝きと、壁に激突した情けなさは、私の魂に深く刻まれたままでした。
「……見てなさい。今日の私は、ただの可愛いお嬢様じゃないわ。王子様に『壁にめり込む変なウマ娘』として記憶されたままなんて、末代までの恥よ! 今日の私は、勝利という名の最高級のブーケを、自らの手で毟(むし)り取る戦士なの!!🌹✨」
「カレン、いい目になったな。今日のパートナーは、イギリスから来た若き天才、オイシン・マーフィーだ。お前のその溢れる情熱を、中山の短い直線にぶつけてこい!🐴💪」
スタッフさんの激励に、私は短く嘶(いなな)いて応えました。
地獄のカイバ特訓を経て、体重はさらに増えて470kg。皮膚の下で脈動する筋肉は、まるで鋼のバネのように研ぎ澄まされている……。今の私は、1番人気の期待を背負う、正真正銘の「主役」!💎✨
(――BGMが、静かな決意を秘めた低音から、運命を切り拓く重厚なオーケストラへ!) 🎺🔥
「さあ、カレン。君の美しさを、勝利という名の『形』にしよう。」
マーフィー騎手のクールで理性的な手綱捌き。ゲートに入った瞬間、私の周囲から音が消え、ただ自分の鼓動と、隣のウマ娘たちの荒い息遣いだけが世界を支配しました。
ガシャンッ!!💨
「……っ!!」
中山・芝1600m、右回り。
デビュー戦のような「届かなかった後悔」は、二度と繰り返さない。
私は6番枠から弾丸のように飛び出し、道中は中団、11番手のポジションを確保しました。
冬の渇いた芝が、先行する馬たちの蹄に削られ、容赦なく私の顔を叩きます。泥が自慢の毛並みを汚そうとも、今の私には、そんなことどうでもよかった。
「(……もっと、もっと前へ! 私の本当の居場所は、砂を被る場所じゃない!!)」
3コーナーから4コーナー。マーフィー騎手のゴーサインが、私の脊髄を駆け抜けました。
「……今よ! 私の魂、中山の急坂を焼き尽くしなさい!!🔥」
(――BGMが最高潮に加速! 地鳴りのような実況が響き渡る!) 🎙️💥
「直線! 外から黄金の影が飛んできた! カレンブーケドールだ! 先頭で粘るシングフォーユーを、次元の違う末脚が捉えにかかる!!」
前を行くのは、戸崎騎手とシングフォーユー。
その背中越しに、あの日負けたダノンキングリーの幻影が重なります。
「……また2着!? そんなの、絶対、絶対、ぜーったいに嫌ぁぁぁぁ!! 2着の場所に、王子様はいないのよー!! 💢🌻」
(――スローモーション。激しく跳ね上がる泥。二頭のウマ娘が、互いのプライドを削り合う叩き合い!) 🐎💥
中山の心臓破りの急坂。筋肉が焼け付くような痛み。肺が破裂しそうな苦しさ。
でも、私の瞳の裏には、あの廊下ですれ違った王子の、冷たくも美しい「飛行機雲のような瞳」が焼き付いて離れない。
あの方と同じ景色を見るためには、ここで止まることなんて、死んでも許されない!!
「……うおおおおおー!! 私が……私が、1着よぉぉぉぉ!! 💥🏆」
(――静寂。ゴール板を、私の鼻先が先に突き抜ける!) 🔔✨
掲示板の1番上に、鮮やかに『6』の数字が点灯しました。
- 1着:カレンブーケドール(牝2) 1:35.5
- 2着:シングフォーユー(牝2) クビ差
「……勝った。……私、本当に……勝ったのね……✨」
ゴールを駆け抜けた瞬間、全身の筋肉が解け、視界が涙で滲みました。
着差はわずか「クビ差」。けれど、それは私にとって、天国と地獄を分かつ、宇宙よりも遠い距離。
検量室に戻ると、スタッフさんが駆け寄ってきて、泥と汗でボロボロになった私の額を、壊れ物を扱うように優しく撫でてくれました。
「カレン! 初勝利おめでとう!! よく粘った、本当によく頑張ったな!!🐴😭」
「……ふふっ。当然よ……。だって、私だもの。……でも、スタッフさん。これ、まだゴールじゃないわ。🌹」
私は泥を払い、遠く、コントレイル様がいるはずの「頂点」を見据えました。
泥にまみれ、息を乱し、美少女としての余裕をかなぐり捨てて掴み取った、初めての栄冠。
この一勝は、単なる記録じゃない。王子への「果たし状」であり、最高の「愛の告白」へと繋がる、黄金の滑走路。
「……見ていて、コントレイル様。私はもっと、もっと、誰よりも強くなって……必ず、貴方のすぐ横まで、誰にも邪魔させない速さで辿り着いてみせるんだから!! 🏁💖✨」
冬の夕陽を背に受けた私の「黄金の花束」は、泥の中にありながら、この日、世界で最も気高く、そして美しく咲き誇ったのでした。🌸🏆👑


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