🌩 第16話 ローズS前夜、静かすぎて逆に怖い
ローズステークス前日の夜。
ちびディーヴァの目は、
いつもよりずっと深く澄んでいた。
「明日が大事な日」
そのことを、確かに理解している目。
普段ならツンツンしている耳も、
今日は静かに伏せ気味で、
まるで風が止まったようだった。
スタッフがひそひそ声で話す。
「……静かすぎない?」
「逆に怖いんだけど」
「嵐の前って、こういう感じだよね」
他の馬たちも、
ディーヴァの周りだけ空気が違うのを感じて、
自然と距離を取っていた。
その中心で、
ディーヴァはじっと立っている。
揺れない。
騒がない。
ただ、静かに明日を見つめている。
🌙 母のぬくもり──甘えの一瞬
そこへ、マスクオフ母さんが近づいた。
大きな体をそっと寄せ、
娘の首元に鼻を触れさせる。
その瞬間──
ちびディーヴァが、
ほんの少しだけ 甘えた。
スタッフ全員、固まる。
「……え?」
「甘えた……?」
「ローズS前夜ってそんなに特別なの……?」
しかしその甘えは一瞬だけ。
すぐにディーヴァはツン顔に戻り、
「別に甘えてないし」
と言わんばかりにそっぽを向く。
でも、
その目はもう迷っていなかった。
🌩 嵐の中心のような澄んだ目
ディーヴァの目は、
静かで、鋭くて、
どこか嵐の中心のように澄んでいた。
走る準備はすべて整っている。
脚の踏ん張り、
体のバランス、
呼吸のリズム、
そして前髪の完璧さ。
スタッフは確信した。
「これは……覚醒の予兆だ」
「明日、絶対に何か起きる」
ディーヴァが小さく鼻を鳴らす。
「ふん……」
その音は、
ただの鼻息なのに、
なぜか“嵐の始まり”の合図に聞こえた。
厩舎の空気が、
ゆっくりと、静かに、
嵐の前の静けさに包まれていく。
明日、
嵐の歌姫が再び世界を揺らす。


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