🐎 第7話:【ファンタジーS】レコードという名の「寄り道」 —ブレーキ、完全に壊れましたわ— 🏁⏱️
2020年11月7日。阪神競馬場、第11レース。
秋の柔らかな陽光が、淀みのない仁川のターフを黄金色に染め上げていた。
メインレース・ファンタジーステークス。そこには、デビューから無傷の2連勝を飾り、今や「最も美しく、最も危うい期待馬」として注目を集めるメイケイエール様の姿があった。✨
パドックに彼女が現れた瞬間、詰めかけた観客の間から、感嘆とどよめきが同時に漏れた。
458kg。無駄な脂肪を一切削ぎ落とし、鋼のように研ぎ澄まされた肉体。そして鼻筋に誇らしく輝くのは、スタッフたちの血の滲むような交渉(?)の末に装着された、純白のシャドーロール。🌹
「あの子が、あの暴走お嬢様か……」
「今日は豊さん、どう乗るんだろうな」
ファンの期待は単勝1.8倍という数字に現れていた。だが、その背中に跨った武豊の表情は、秋晴れの空とは対照的に、深い霧に包まれているかのように険しかった。
(……まずいな。前走よりもさらにハミを噛んでいる。心拍数が、歩いているだけで伝わってくるほど高い。この子は今、この場所を『社交場』ではなく『戦場』だと確信している。)
「エール、落ち着くんだ。今日は1400m。距離が延びるんだから、少しは省エネで行こうよ」
天才の囁きは、エール様の耳をかすめる「心地よい風」にすらならなかった。💅✨
『あら、天才。省エネ? 何を仰っていますの? 私はただ、誰よりも早くあのゴールという名のティーサロンへ向かい、最高の紅茶をいただく。それ以外の選択肢が、私の辞書にあるとお思い!?』
15時45分。静寂が阪神競馬場を包み、次の瞬間、鉄の扉が弾け飛んだ。
――ガシャン!
その瞬間、エール様はロケットを超えた「流星」になった。🚀🌪️
最外枠10番。本来なら馬群の後ろで折り合いをつけるのが定石。しかし、彼女にそんな「妥協」は通用しない。
12.2 – 10.7。
重賞の舞台、しかも距離延長。それなのに彼女は、まるで100m走のように加速し、瞬く間に先頭集団を抜き去っていく。
3コーナー。
場内から悲鳴にも似たどよめきが上がった。
エール様は、武豊の必死の制御をあざ笑うかのように、大きく外へ外へと膨らんでいく。
それはもはや「最短距離を通る」という競馬の目的を忘れたかのような、お嬢様流の**「極上の寄り道」**だった。🌪️💨
「っ……、エール! 右だ! 右へ行くな!」
豊さんの腕には、前走を遥かに凌ぐ、凄まじい「拒絶」の力が伝わっていた。
彼女は右へ逃げようとし、一方で前へ突き進もうとする。
ハミを真っ二つに噛み切りそうなほどの力。
それほどまでの強情な走りをしながら、なおも彼女の脚は一向に衰えないどころか、加速し続けている。
『おーっほっほ! 景色がよく見えますわ! 内側で肩を寄せ合って走るなんて、私には似合いませんもの。この広い空を独占して爆走する。これぞ、メイケイエールの美学ですわ!』
直線。
内側では福永祐一のヨカヨカ、川田将雅のラヴケリーが必死に粘る。
そこへ、大外から「寄り道」を終えたエール様が、一気に強襲した。
名手・横山典弘が導くオパールムーンが、最後方から次元の違う末脚で追いすがってくる。
だが、エール様はゴールが見えた瞬間、さらにもう一段、自らの魂に火をつけた。
1着。
電光掲示板に刻まれたその数字に、スタンドは一瞬の沈黙の後、爆発的な、震えるような歓声に包まれた。
【1:20.1 — レコード —】 ⏱️💥
1400m。あれだけ外を回り、あれだけ道中でエネルギーを無駄に使い、あれだけ「格闘」しながら……なお、歴史を塗り替えた。
それは、競馬界の常識をマッハで粉砕した、あまりにも不器用で、あまりにも凶暴な「才能の証明」だった。🏆✨
だが、検量室へ戻ってきた武豊の顔に、笑顔は一欠片もなかった。
ヘルメットを脱いだ彼の髪は汗で張り付き、手綱を放した指先は、極限の緊張から解放され、微かに震えていた。
駆け寄る武英智調教師。彼は勝利の興奮を伝えようとしたが、豊さんの低い、重たい声に言葉を失った。🤐💦
「……英智。勝ったよ。勝ったけど……正直に言う。今日は、本当に怖かった。」
「豊さん……」
「この子は、ブレーキが完全に壊れてる。右へ右へと逃げて、ボクの力じゃ真っ直ぐ走らせるのが精一杯だった。……このポテンシャルは恐ろしい。でも、このままじゃ、いつか大きな事故を起こしかねない。……これは、もう『技術』の問題じゃない。魂の問題だ。」
天才・武豊をして「怖い」と言わしめた、地獄のレコード勝ち。
陣営は、重賞3連勝の喜びに浸る間もなく、次のG1・阪神JFに向けて、さらなる「底なしの恐怖」と向き合うことになる。
一方のお嬢様は、レコードという冠を「当然のアクセサリー」として受け止め、涼しい顔で鼻を鳴らしていた。😤🌹
『おほほ! レコード? 何ですの、その新しい流行語かしら? まあ、私が通った道に新しい歴史が刻まれるのは、至極当然のことですわ! さあ、次はもっと白いお城へ連れて行ってくださる? 私と同じ血の、あの子がいる場所へ!』
次なる戦いは、2歳女王決定戦。いとこにして宿命の白毛女王・ソダシとの初対決。
お嬢様は、まだ知らない。
自分よりも先に、世界の喝采を独占する「本当の女王」の背中を見ることになる、初めての悔しさを。🐾🔥


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