🌸💫 『いつか届くと信じて走った──ナムラクレア』 💫🌸 第27話

🌸 『いつか届くと信じて走った──ナムラクレア』 🌸

❄️🔥 第27話 阪神カップ2025──勝てるはずのレースで勝てない理由


🔥💭 ① 勝ちたい気持ちが胸を焦がす
GⅠで勝てない痛みが積み重なり、
「勝ちたい」が強くなる。

2025年のクレアの胸には、
“あと少し”の傷が、もう数えきれないほど刻まれていた。

高松宮記念。
スプリンターズS。
何度も挑んで、
何度も届かなくて、
何度も「惜しい」と言われてきた。

「……おしい、じゃない……
 かちたい、のに……」

“善戦”という言葉は、
いつしか、
クレアの胸を刺す棘になっていた。

勝てない悔しさが積み重なるたびに、
「勝ちたい」という気持ちは、
ただの願いではなく、
焦げつくような執念に変わっていく。

阪神カップ。
GⅡ。
でも、クレアにとっては、
“ただのGⅡ”ではなかった。

「……ここで、
 ちゃんと、かちたい……」

その思いが、
静かに、しかし確実に、
クレアの胸を焦がしていた。


❄️🌫️ ② 冬の匂いが静かに冷たい
阪神の冬は冷たい。
その冷たさが心を締めつける。

12月の阪神競馬場。
空気は澄んでいて、
スタンドの向こうには、
冬の色を帯びた空が広がっていた。

「……さむい……」

吐く息は白く、
風は鋭くはないのに、
どこか心の奥に触れてくるような冷たさを持っていた。

冬の匂い。
芝の匂い。
遠くから聞こえるファンファーレの音。

その全部が、
“今年が終わろうとしている”ことを、
静かに告げていた。

「……ことし、も……
 GⅠでは、かてなかった……」

その事実が、
冬の冷たさと一緒に、
クレアの胸を締めつける。

それでも、
ここで終わるわけにはいかない。

「……きょうは、
 おわりじゃない……
 つぎのはるに、つなげるひ……」

冬の匂いの中で、
クレアは、
小さく、そう呟いた。


🌟💨 ③ 気合が戻る
調教の動きが悪くない。
体はまだ走れる。

阪神カップを迎えるまでの調教で、
クレアの動きは、
決して悪くなかった。

「クレア、まだ全然動くな」
「年齢の割に、気持ちも体も落ちてへん」
「ここは、きっちり結果出したいな」

追い切りの時計も、
感触も、
“まだやれる”と教えてくれていた。

“からだは、
 まだ、はしれる……”

その実感が、
クレアの胸に、
少しだけ明るい灯りをともす。

高松宮記念でも、
スプリンターズSでも、
勝てなかった。

でも、
それは“走れなかったから”ではない。

「……ちゃんと、
 まだ、たたかえる……」

自分の脚に、
自分の心に、
そう言い聞かせるように、
クレアはパドックを歩いていた。


🏆⚡ ④ 勝てるはずのレース
条件も、相手も、悪くない。
勝てるはずだった。

阪神カップ。
1400m。
外回り。

距離も、
コースも、
クレアにとって“未知”ではない。

相手関係を見ても、
ルガルは強い。
でも、
GⅠでぶつかってきたような、
“絶対王者”という存在はいない。

「ここは、クレアが主役やろ」
「1番人気やしな」
「GⅠは勝ててへんけど、ここは落とせん」

そんな声が、
スタンドからも聞こえてくる。

「……かてる、はず……
 ここなら、きっと……」

クレア自身も、
どこかでそう思っていた。

条件も、
相手も、
悪くない。

“勝てるはずのレース”。

だからこそ、
このレースには、
別の重さが宿っていた。


💔📉 ⑤ でも勝てない
伸びる。
でも、前にもう一頭いる。

──スタート。

クレアは、
いつも通り、
スムーズにゲートを飛び出した。

前では、
9番、10番、4番が飛ばしていく。
その少し後ろ、
中団より前の外めに、クレア。

1400mの流れは速い。
でも、
今日はその速さに、
しっかりと脚がついていく。

3コーナー。
4コーナー。

ルメールの手綱が、
静かに動く。

「……いける……」

直線。
視界が開ける。

クレアは、
外からまっすぐ伸びていった。

脚は軽い。
反応もいい。
体も、心も、
ちゃんと“勝ちに行く”走りをしていた。

でも──
前に、
もう一頭いた。

ルガル。

同じように、
あるいはそれ以上に、
鋭く伸びていた。

「……とどけ……!」

クレアは、
最後の一完歩まで、
脚を伸ばし続けた。

でも、
ゴール板を過ぎたとき、
その差は、
“ハナ”だけ残っていた。


🌑🩶 ⑥ 影が濃い
勝てるはずのレースで勝てない。
その影が胸を覆う。

掲示板に灯る数字。

1着、ルガル。
2着、ナムラクレア。

タイムは同じ。
1分19秒0。
レコードタイ。

着差は、
ほんの“ハナ”だけ。

「……また、“おしい”……」

GⅠではない。
でも、
“勝てるはずのレース”だった。

条件も、
体調も、
展開も、
決して悪くなかった。

それでも、
勝てなかった。

「……なんで、
 かてないんだろう……」

その問いが、
静かに胸を覆う。

GⅠで勝てない痛みとは、
少し違う。

“ここなら勝てるはずだった”という場所で、
勝てなかった痛みは、
別の形をした影になって、
クレアの心に落ちていく。


🕯️💭 ⑦ 「もう一度だけ」
その言葉が、心の奥で響く。

検量室の前。
ルメールは、
淡々と、しかし悔しさを滲ませながら言う。

「クレアは、
 ベストを尽くしてくれました。
 ほんの少し、運が足りなかっただけです」

“運が足りない”。

それは、
何度も聞いてきた言葉だった。

でも、
運だけの問題なのだろうか。

「……わたしが、
 もっとつよかったら……
 もっと、ちゃんと、かてる“なにか”をもっていたら……」

答えの出ない問いが、
またひとつ増える。

それでも、
心の奥底では、
別の言葉も響いていた。

「……もういちど、だけ……」

もう一度だけ、
春のGⅠへ。

もう一度だけ、
“勝てるはずのレース”ではなく、
“本当に勝ちたいレース”へ。

その願いが、
呪いのように、
クレアの胸に残り続ける。


🌙🔥 ⑧ ラストランへ向かう決意
次の春。
それが最後。

阪神の冬の夕暮れが、
少しずつ色を失っていく。

スタンドの明かりが灯り、
レースの余韻が、
ゆっくりと遠ざかっていく。

クレアは、
その中で、
静かに目を閉じた。

「……つぎのはる……
 たぶん、
 それが、さいご……」

誰かにそう告げられたわけではない。
でも、
自分の体と、
積み重ねてきた時間が、
そう囁いている気がした。

「……それでも、
 もういちどだけ、いきたい……
 あの、GⅠのげーとに……」

勝てるはずのレースで勝てなかった理由は、
まだ、はっきりとはわからない。

運なのか。
力なのか。
何か、決定的に足りないものがあるのか。

その答えを探すために。
そして、
“勝てない自分”と向き合った先に、
何があるのかを知るために。

クレアは、
ラストランになるかもしれない春へ向けて、
静かに、
しかし確かな決意を抱いた。

「……もういちどだけ、
 ほんとうに、かちたいレースへ──」

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