🌸🔥 第5話 フェニックス賞──夏の風がくれた初めての勝利(オープン)
🎐🌻 ① 悔しさを抱えたまま迎えた夏
新馬戦から二週間。
胸の奥には、まだ“あの日の痛み”が残っていた。
届かなかった距離。
胸に刺さった悔しさ。
あの直線で感じた焦り。
「……つぎは……ぜったい……」
その言葉だけが、
ずっと胸の奥で熱を持ち続けていた。
小倉に着いた朝、
湿った夏の空気が肌にまとわりつく。
空はどんよりしているのに、
胸の奥だけはずっと熱かった。
🍃🎐 ② 小倉の風が背中を押す
パドックに出ると、
雨上がりの芝の匂いがふわりと漂った。
観客席からは、
レース前のざわめきが波のように押し寄せてくる。
「今日は荒れるぞ」
「スパーダが強いはずだ」
「いや、あの黒鹿毛の子……動きいいぞ」
そんな声が、
湿った空気の中で混ざり合う。
ナムラクレアの耳が、
そのざわめきにぴくりと動いた。
「……いける……きょうは……」
新潟とは違う。
ざわめきも、空気も、匂いも違う。
でも、
“前へ進みたい”という気持ちは同じだった。
🤝💛 ③ “行こう”の声が胸に響く
ゲート裏。
雨で濡れた鉄の匂いが強くなる。
観客席からは、
傘を叩く雨音と、
レースを待つざわめきが混ざって聞こえた。
松山弘平の手綱が、
そっと背中に触れた。
「クレア、行こう。勝ちに行くぞ」
その声は、
胸の奥にまっすぐ落ちてきた。
新馬戦のときとは違う。
震えよりも、
期待のほうが大きかった。
「……うん。いく……!」
ゲートが閉まる音が、
今日は怖くなかった。
🌧️🔥 ④ 初勝利の風は甘くて熱い
スタートの一歩。
泥が跳ね、湿った芝の匂いが強くなる。
観客席から、
「行けーッ!」
「スパーダ先頭!」
「外の黒鹿毛も来てるぞ!」
そんな声が飛び交う。
前にテイエムスパーダ。
速い。
でも、離されない。
雨で重い馬場なのに、
脚は軽かった。
「いける……まだ……いける……!」
直線に入った瞬間、
胸の奥が熱くなる。
視界の端で、
松山の手綱がわずかに動いた。
「行け、クレア!」
その声に、
体が勝手に反応した。
まっすぐ伸びる。
泥を蹴り飛ばしながら、
前へ、前へ。
テイエムスパーダの影が近づく。
追いつく。
抜ける。
スタンドが一気に沸いた。
「うわぁぁぁッ!」
「差した! 差したぞ!」
「クレアだ!!」
「……っ! いけた……!」
初めての1着。
胸の奥が甘くて熱くて、
涙が出そうだった。
✨💗 ⑤ 胸に灯る小さな光
息が荒い。
脚が震える。
でも、胸の奥はもっと震えていた。
観客席からは、
拍手と歓声が混ざり合って聞こえる。
「かてた……ほんとうに……」
勝つって、
こんなにあたたかいんだ。
新馬戦で刺さった痛みが、
少しだけ溶けていく。
胸の奥に、
小さな光が灯った。
🔥🌟 ⑥ 勝つ喜びを知ってしまった
ウイナーズサークル。
雨で濡れた空気の中、
拍手がふわりと響く。
松山が笑っている。
スタッフも笑っている。
その全部が、
胸の奥をくすぐった。
「もっと……かちたい……」
初めて知った“勝つ喜び”は、
あまりにも甘くて、
あまりにも熱くて、
もう忘れられなかった。
🌙👀 ⑦ 期待という名の影が生まれる
レース後、
周囲の視線が変わった。
「この子、強いぞ」
「短距離で大物になるかもな」
「今日の勝ち方、ただ者じゃない」
その言葉が、
ナムラクレアの背中にそっと寄り添う。
期待。
それは光でもあり、影でもある。
でも──
彼女はその影を怖がらなかった。
「だいじょうぶ……わたし、もっと……はしれる……」
夏の雨の中で灯った小さな光は、
静かに、確かに強くなっていった。



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