🌸💫 『いつか届くと信じて走った──ナムラクレア』 💫🌸 第21話

🌸 『いつか届くと信じて走った──ナムラクレア』 🌸

❄️🍃 第21話 キーンランドC2024──揺れる心、揺れる風


🌻💤 ① 疲れが胸に残る夏
去年から続く激戦。
心も体も、少しずつ削れている。

札幌への輸送車の中、
クレアは窓の外をぼんやりと見つめていた。

函館、札幌、中京、高松宮記念──
全力で走って、全力で悔しがって、
そのたびに、胸のどこかが少しずつ削れていった。

「……つかれた……?」

自分で自分に問いかけるような、
小さな声が胸の奥で揺れる。

走りたくないわけじゃない。
勝ちたくないわけでもない。

ただ──
“前みたいに、軽く風を掴める自分”が、
少し遠くなった気がしていた。


🍃🌫️ ② 風が重く感じる日
札幌のパドック。
夏の終わりの風が、スタンドを抜けていく。

本来なら、
札幌の風は軽くて、涼しくて、
クレアの一番好きな風のはずだった。

でも今日は違う。

「クレア、頼むぞ!」
「ここは格の違い見せてくれ!」
「1番人気や、負けられん!」

声は熱いのに、
風がそれを重く包み込んでしまう。

“風が……おもい……”

クレアの耳が、
その重さを敏感に拾う。

夏の光は明るいのに、
胸の中だけ、少し曇っていた。


🐎💭 ③ 迷いが蹄を鈍らせる
ゲート裏。
金属のきしむ音。
馬たちの息づかい。
蹄が地面を叩く、低いリズム。

クレアの耳が、
小さく揺れた。

「……ほんとうに、
 また伸びるのかな……?」

高松宮記念、
函館スプリント、
そしてここまでの調教。

“走れている”
“戦えている”

それでも、
どこかで小さな不安が消えない。

浜中俊の手綱が、
その揺れを感じ取る。

「クレア。
 大丈夫や。
 お前は、走れる」

その声は優しい。
でも、優しさの奥に、
ほんの少しだけ焦りの色が混じっていた。

その焦りが、
クレアの胸にも、
うっすらと影を落とす。

迷いが、
蹄の先に、
ほんの少しだけ重さを足した。


🌬️📉 ④ 伸びない脚が語る現実
──スタート。

札幌1200m、良馬場。
芝は軽い。
時計も速い。

前半3ハロンは、
いつも通りのリズムで進んでいく。

クレアも、
いつものように風を掴もうとする。

……はずだった。

「……あれ……?」

直線に向いた瞬間、
いつもならスッと前に出るはずの脚が、
今日は、わずかに重かった。

サトノレーヴが、
外から一気に抜け出す。

エイシンスポッターが、
鋭く脚を伸ばす。

その後ろで、
クレアも懸命に脚を回す。

でも──
伸びない。

“体が、
 ここから前に出ていかない……”

風はある。
スペースもある。
脚も動いている。

それなのに、
“前に届く感覚”だけが、
どこか遠くにあった。

5着。
クビ、クビ、クビ、クビ。

数字にすれば、
ほんのわずかな差。

でも、
クレアの胸には、
“届かない距離”として刻まれた。


💦💔 ⑤ 焦りが胸を締めつける
「どうして伸びないの?」

レース後、
クレアの胸の中で、
その問いが何度も反響する。

スタートは悪くなかった。
道中も、ついていけた。
手応えも、ゼロじゃなかった。

なのに──
最後の最後で、
“あの一歩”が出ない。

「……なんで……?」

風は軽いはずなのに、
自分だけが重い気がした。

“わたしの脚が、
 もう、前みたいに動かないの……?”

その焦りが、
胸をきゅっと締めつける。


🌙🕯️ ⑥ 「わからない」
夜。
札幌の馬房。

外からは、
涼しい風と、
遠くのざわめきがかすかに届く。

クレアは、
静かに立ったまま、
目を閉じていた。

「……なにが、
 たりないの……?」

坂でもない。
重馬場でもない。
距離も合っている。
コースも知っている。

それでも、
伸びない。

「……わからない……」

その言葉が、
胸の奥に沈んでいく。

理由がわからない敗北は、
どんな不利より、
どんな不運より、
心を冷たくする。

涙は出ない。
ただ、
心のどこかが、
静かに冷えていく。


🍁🌑 ⑦ 秋のGⅠへ向かう影
次はスプリンターズS。

中山1200m。
あの、
“届かない現実”を突きつけられた場所。

「……いかなきゃ……」

クレアは、
小さく息を吐いた。

疲れはある。
迷いもある。
“わからない”影も、
まだ胸に残っている。

それでも──
秋のGⅠは待ってくれない。

「……こんどこそ……
 なにが、たりないのか……
 みつけないと……」

影を抱えたまま、
それでも前に進もうとするその姿は、
もう“ただのスプリンター”ではなかった。

勝てない理由を抱えたまま、
それでも風を掴みに行く馬。

夏の札幌の空は、
どこまでも高く澄んでいた。

その下で、
クレアの影だけが、
少しだけ長く伸びていた。

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