❄️🔥 第23話 阪神カップ2024──久しぶりの勝利、でも影は消えない
🔥① 勝ちたい気持ちが胸を焦がす
GⅠで勝てない痛みが積み重なり、
「勝ちたい」が強くなる。
2024年のクレアの胸には、
“あと少し”の傷がいくつも重なっていた。
高松宮記念、
キーンランドC、
スプリンターズS。
どのレースも、
戦えている。
伸びている。
掲示板にも、馬券にも、ちゃんと絡んでいる。
それでも──
一度も、てっぺんには届かなかった。
「……かちたい……」
その気持ちは、
痛みと一緒に、
少しずつ、少しずつ、胸の奥で燃えていった。
“勝てない悔しさ”が積み重なるたびに、
「勝ちたい」が、
焦げつくような熱を帯びていく。
❄️② 冬の空気が静かに冷たい
阪神カップ──
でも、今年の舞台は京都外回り1400m。
冬の京都。
空は低く、
雲は重く、
空気は静かに冷たい。
でも、その冷たさは、
春や夏のGⅠのような、
胸を刺すような残酷さとは少し違っていた。
「……すこし、
おちつく……」
パドックを周回しながら、
クレアは冬の空気を胸いっぱいに吸い込む。
GⅠのときのような、
“ここで決めなきゃいけない”という
張り詰めた空気は、少し薄い。
それでも、
「勝ちたい」という熱は、
胸の奥で静かに燃え続けていた。
冷たい空気と、
胸の熱さが、
不思議なバランスで同居していた。
🌟③ 軽い気配が戻る
調教の動きが、
ここに来てようやく“クレアらしさ”を取り戻していた。
夏の札幌では、
どこか脚が重く、
“伸びない自分”に戸惑っていた。
秋の中山では、
伸びているのに届かない、
“理由のわからないクビ差”に心を削られた。
でも──
この冬の京都では、
体が、少しずつ軽くなっていた。
「動き、ええな」
「ようやく本来の感じ戻ってきたんちゃうか」
調教を見ていた人たちの声が、
クレアの耳にも届く。
“からだが、
ちゃんと、まえに出ていく……”
その感覚が、
少しだけ心を明るくした。
GⅠで勝てない影は消えない。
それでも、
“走れる自分”が戻ってきたことだけは、
はっきりとわかった。
🏆④ 久々の勝利が胸を熱くする
──スタート。
外枠16番。
ゲートの外側から、
クレアはスムーズに飛び出した。
前ではアサカラキングとエトヴプレが飛ばす。
その少し後ろ、
外めの好位に、クレア。
1400mの流れは速い。
でも、
今日はその速さに、
ちゃんと脚がついていく。
「……いける……」
4コーナー。
外から、
クレアがじわりと進出する。
直線。
視界が開ける。
クレアは、
まっすぐ、
迷いなく、
風を掴んで伸びていった。
脚は軽い。
反応も鋭い。
体も、心も、
今日はちゃんと“前に出ていく”。
内で粘るマッドクールを、
外からクレアが捉える。
ゴール板を駆け抜けた瞬間、
胸の奥で、
何かが熱く弾けた。
「……かった……!」
久しぶりの、
はっきりとした“勝利の感触”が、
クレアの胸に戻ってきた。
🌫️⑤ でも満たされない心
勝ったのに、
胸の奥に、
小さな影が残っていた。
「GⅠじゃない」
その事実が、
静かに、しかし確実に、
喜びの輪郭を削っていく。
もちろん、
GⅡは簡単なレースじゃない。
マッドクールも、
ママコチャも、
セリフォスも、
強い馬たちが揃っていた。
その中で、
1番人気として、
きっちり勝ち切った。
それでも──
胸のどこかが、
“満たされきらない”ままだった。
“わたしが、
本当に勝ちたい場所は、
ここじゃない……”
その感覚が、
勝利の余韻の中で、
静かに顔を出す。
💭⑥ 「GⅠじゃない」
「GⅠじゃない」
その言葉が、
クレアの胸の奥で、
何度も何度も反響する。
誰かが口にしたわけじゃない。
観客がそう言ったわけでもない。
それは、
クレア自身の心の声だった。
高松宮記念。
スプリンターズS。
何度も挑んで、
何度も“あと少し”で届かなかった場所。
「……あそこ、で……
かちたいのに……」
阪神カップの勝利は、
確かに嬉しい。
体が戻ってきたことも、
脚が伸びたことも、
ちゃんとわかっている。
それでも、
「GⅠじゃない」という一言が、
勝利の喜びを、
ほんの少しだけ薄くしてしまう。
🌤️⑦ 冬の光が優しい
レース後、
雲の切れ間から、
冬の柔らかい光が差し込んだ。
春の光のように眩しくない。
夏の光のように鋭くない。
ただ、
静かに、
優しく、
馬場とスタンドを照らしていた。
その光は、
クレアのたてがみも、
汗に濡れた首筋も、
そっと撫でていく。
「……やさしい……」
でも、
その優しさの中でも、
影は消えなかった。
GⅡの勝利でさえ、
完全には照らしきれない影。
GⅠで勝てない痛みが、
何層にも重なってできた、
深い影。
冬の光は優しい。
だからこそ、
その影の濃さが、
余計にはっきりと見えてしまう。
🌙⑧ 2025年へ向かう影
2024年が、
静かに終わろうとしていた。
次の春。
また、高松宮記念が来る。
「……また、
あの、どろと、かぜのなかに……」
クレアは、
小さく息を吐いた。
阪神カップを勝っても、
影は消えない。
むしろ、
“勝てる力があるのに、GⅠで勝てていない”という事実が、
影をさらに濃くしていく。
それでも──
2025年の春は、
確実に近づいてくる。
「……こんどこそ……」
その言葉は、
願いであり、
呪いでもあった。
勝利の余韻と、
消えない影と、
まだ見ぬ春の風。
それら全部を抱えたまま、
クレアは、
2025年へ向かって歩き出した。
影を連れたまま、
それでも、
もう一度、
あのGⅠのゲートへ向かうために。


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