🌸🔥 第11話 函館スプリントS2022──わたしの道は、ここから始まる(GⅢ)
🌙💫 ① 距離を変えて、心も変わる
桜花賞から二ヶ月。
春の匂いは消え、
北海道には夏の気配が漂っていた。
でも──
胸の奥には、まだ“1600mの影”が残っていた。
伸びたのに届かない。
弱くないのに勝てない。
あの最後の100mが、胸に刺さったままだった。
「……わたしは……どこを、はしればいいの……?」
迷いの中で選んだ“1200m”。
それは逃げではなく、
自分の体と心に正直になる選択だった。
距離を変える。
それは、心を変えるということでもあった。
🍃🌞 ② 函館の風が軽く吹く
北海道の空気は、驚くほど軽かった。
潮の匂い。
夏の匂い。
芝の匂い。
遠くで鳴くカモメの声。
その全部が、
胸の奥にすっと入ってくる。
桜花賞の時のような重さはない。
観客のざわめきも、どこか柔らかい。
そして──
クレアの体も軽かった。
「……からだが……うごく……」
函館の風が、
クレアの背中をそっと押した。
🔔💭 ③ 迷いを振り切るゲート裏
ゲート裏。
鉄の匂い。
馬たちの息遣い。
係員の短い声。
その全部が、
クレアの胸を静かに整えていく。
浜中俊が、
そっと手綱を引いた。
「短い距離なら、きっと。
クレア、お前は速いんだ」
その声は、
迷いを断ち切る刃のように静かで強かった。
「……うん……!」
胸の奥の影が、
少しだけ光に変わった。
⚡🐎 ④ スプリンターとしての覚醒
ゲートが開いた瞬間──
体が弾けた。
飛び出す、じゃない。
“跳ねるように”前へ。
芝を蹴る音が軽い。
風が頬を切る。
視界が一気に開ける。
1600mでは感じられなかった“しっくり感”。
1200mという距離が、
クレアの体にぴたりと合っていた。
「……これ……これだ……!」
体が、風を欲しがっていた。
風が、クレアを求めていた。
🌬️✨ ⑤ 風と一体になる走り
直線に入る。
浜中の手綱がわずかに動く。
「行け、クレア!」
その声に、
体が勝手に反応した。
伸びる。
まっすぐ伸びる。
風と同じ速さで、風と同じ方向へ。
風が体を包む。
風が脚を押す。
風が視界を開く。
「……わたし……かぜ……!」
その瞬間、
クレアは“スプリンター”になった。
💖🔥 ⑥ 胸に戻る自信の光
ゴールを駆け抜けた瞬間、
胸の奥が熱くなった。
久しぶりの感覚。
忘れかけていた光。
「……かてた……!」
桜花賞の影が、
少しだけ溶けていく。
観客の歓声が、
夏の風に乗って届く。
「クレア強い!」
「圧勝だ!」
「スプリント路線の主役だ!」
その声が、
胸にまっすぐ刺さった。
🌻🌈 ⑦ 夏の匂いが未来を照らす
ウイナーズサークル。
汗と風の匂いが混ざる。
夏の匂い。
未来の匂い。
胸の奥が、
少しだけ明るくなる。
「……わたし……はしれる……
もっと……はやく……」
夏の光が、
クレアの未来を照らした。
🌒⚡ ⑧ 次の影が静かに近づく
でも──
影は消えない。
スプリントの世界は甘くない。
もっと強い相手が待っている。
ビアンフェ。
ヴェントヴォーチェ。
そして、まだ見ぬ強敵たち。
風の道は、
優しいだけじゃない。
「……つぎは……もっと……つよい……」
夏の風が、
新しい影を運んでくる。
でも、怖くなかった。
クレアはもう、
“風の道”を選んだから。


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