🌸🔥 第7話 ファンタジーS──勝てると思ったのに、届かない(GⅢ)
🎀💭 ① 勝なきゃいけないという呪い
秋の阪神。
パドックに足を踏み入れた瞬間、
ナムラクレアは空気の“温度”が夏とは違うことに気づいた。
観客の視線が鋭い。
ざわめきが低い。
空気が重い。
「クレアなら勝てる」
「ここは落とせない」
「1番人気だぞ」
そんな声が、
肌にまとわりつく湿気みたいに離れない。
まだ2歳。
まだ小さな体。
なのに──
背負うものは、もう“普通の2歳”じゃなかった。
「……かたなきゃ……」
その言葉が、
呪いみたいに胸に絡みついた。
💫😣 ② 期待の重さが肩にのしかかる
返し馬に向かう途中、
観客席からのざわめきが波のように押し寄せる。
「クレアが本命」
「負けたらショックだな」
「ナビレラより上だろ」
“勝って当然”
その空気が、
ナムラクレアの肩にじわりとのしかかる。
胸が少し苦しい。
呼吸が浅くなる。
蹄が地面を踏むたび、
その重さが体に響く。
「……みんな……わたしに……」
期待は光。
でも、時に影にもなる。
🫧🐾 ③ 勝ちに行く覚悟
ゲート裏。
鉄の匂いが強くなる。
馬たちの息遣いが重なる。
係員の短い声が響く。
ナムラクレアの耳がぴくりと動く。
緊張が蹄を震わせる。
でも──
逃げたいとは思わなかった。
浜中俊が、
そっと手綱を引いた。
「クレア、今日は勝ちに行くぞ」
その声は迷いがなかった。
だからクレアも迷わなかった。
「……うん。いく……!」
ゲートが閉まる音が、
今日はやけに大きく聞こえた。
🌪️💔 ④ 届かないという現実
ゲートが開いた瞬間、
ナムラクレアの体は軽かった。
芝を蹴る感触。
風を切る音。
観客の声が遠くで揺れる。
3コーナー、4コーナー──
手応えは悪くない。
むしろ、勝てると思った。
直線に入る。
浜中の手綱がわずかに動く。
「行け、クレア!」
伸びる。
まっすぐ伸びる。
脚は動く。
気持ちも折れていない。
でも──
前に、もう一頭いる。
ウォーターナビレラ。
その背中が、
どれだけ伸ばしても近づかない。
距離が縮まらない。
風の音が変わらない。
視界の中で、
ナビレラの影だけが揺れない。
「……なんで……?」
届かない。
本当に、届かない。
💘😢 ⑤ 胸の奥がきゅっと痛む
ゴールを過ぎた瞬間、
胸の奥がきゅっと痛んだ。
負けた理由がわからない。
脚は動いた。
気持ちも折れていない。
なのに──
勝てなかった。
観客席から、
「クレア負けたか……」
「いや、強かったよ」
そんな声が聞こえる。
その声が、
胸に刺さる。
「……どうして……?」
涙は出ない。
でも、胸が痛い。
🌫️💭 ⑥ どうして、の答えはまだない
ウイナーズサークルに向かう途中、
ナムラクレアは空を見上げた。
曇り空。
光が弱い。
風が冷たい。
「どうして……かてなかったの……?」
その問いに、
まだ答えはなかった。
浜中俊は静かに言う。
「大丈夫。まだ強くなれる」
その声は優しい。
でも、クレアの胸の痛みは消えなかった。
🧱✨ ⑦ GⅠという壁が見え始める
レース後、
周囲の視線が変わった。
「クレア、惜しかったな」
「ナビレラが強かった」
「でも、この子はGⅠで勝負になる」
その言葉が、
ナムラクレアの背中にそっと寄り添う。
期待。
それは光でもあり、影でもある。
そして──
その影の先に、
“GⅠという壁”が静かに立ちはだかっていた。
「……もっと……つよくならなきゃ……」
その日、
ナムラクレアは初めて
“勝てると思ったのに勝てない”痛みを知った。


コメント